作家・ライター
シンガポール出身,元気なシングルマザー
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東京の男に救われる、福岡の女たち

わたしの周りには、東京の男に誘われて上京した福岡の女が何人もいる。

 

知っているだけでもその女の数は、片手では全然足りないほどだ。

無論、わたしもそのうちの一人である。

 

地元の大学を卒業し、社会人生活をそのまま地元で営んでみて、あっという間に数ヶ月やら数年。そこで立ち止まり、ため息をつき、声に出してそっとつぶやく。

 

「あー、つまらん。

 誰かこんな田舎から救い出してくれんかいな」

 

その声を聞いた東京の男が言う。

「それなら、東京へ来ればいいじゃないか」

 

そうか。東京。その手があったか。

 

そして女たちはその言葉を信じ、男を信じ、片道の格安航空券を握りしめ、飛行機へと乗り込む。24歳、25歳、26歳。そんな年令になってから学生時代にも住んだことのない、人生初めての大都会へと向かう。

窓から見える景色が変わっていくことに、期待と不安、だけど期待を多めに抱えながら。

 

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東京の男に誘われてやってくる地方の女たちには、いくつか特徴があるように思う。ひとつ挙げるとするならば、そもそもその男とそんなに長くおつきあいをしているわけではない。

 

「付き合おう」「一緒に住もう」

これが同時なことがほとんどだ。

これに加えて「結婚しよう」までついてくるパターンも有る。(わたしもそうだった)

 

物語は突然ドラマチックに色づき、スタートする。現実世界の自分に降り掛かった出来事だと思えないほどに。

今まで地方での小さな村社会のようなコミュニティに辟易としていた、息苦しいよと思っていた女たちにとっては、まさにシンデレラストーリーだ。

 

東北もそうかもしれないが、九州の女はとても息苦しい。

四年制大学に行くことさえ「ちょっとねぇ」と言われる中で、親をねじふせるためには地元の大学に行くことが正義とされる。国立や公立なら、もちろんなおよし。短大もよし。

東京の私立大学? そんなのは論外なのだ。偏差値が足りていようが、家庭の資産的に可能であろうが、そんなことは不可能なのだ。

 

つまらない地元で、少し背伸びをして、それでも行けてやっと博多(わたしたちにとっては大都会!)あたりの大学。関西や関東なんてのは、わたしたちには全く知らない別世界だ。

でも時代は残酷だ。情報だけは入ってくるのだ。インターネットでInstagramを見てみれば、流行のカフェに楽しげなサークル、日本初上陸の美術館の展示へ行ったよなんて投稿が見え隠れ。

そもそも学生の絶対数が多い都会では、インカレの盛り上がり方も違う。図書館や美術館、イベントの開催頻度、ああ、文化資本だって違う。

雑誌のCanCamを開いてみれば、どこにそんなお金があるの?と思うほどにきらびやかな女子大生が図鑑のように並んでいる。巻き髪も上手で、垢抜けていて、茶髪の似合い方も違う。初めて染めた下手くそな茶髪とは、ちょっとワケが違う。

 

わたしたちには手が届かない世界。永遠に。

 

でもね、意外なことにそれとは無縁でも、こっちはこっちでそれなりに楽しい。学生同士で集まって、飲み会もすればカフェも行くし、ぶらぶらと時間をつぶすし、多分根底的にやることは同じなのだ。

閉塞感でいっぱいの小さなコミュニティだけど、それなりには結構楽しいのだ。だけど、そう、それなりには。

 

東京? 考えたこともなかった。

 

この思考のまま、軽やかにゆるやかに、わたしたちは地元に文句を言わずに就職をしていく。いや、有無を言わせずにさせられてしまう、というほうが正しいだろうか。

 

コツコツ。コツコツ。地元の堅実な企業に入る。

さあ、この先の未来の着地点はどこにあるのだろうか?

 

地元の銀行マンとの結婚?はたまた地方公務員との結婚?JR九州?西鉄?九電?そこがベストだというの?

いやいや、夢はある。福岡支社(または九州支社)に数年だけ都会から来ている男と結婚する?

 

ああ、でも、すべて、すべて結婚だ。

行き着く先は、ここしかないのか。

結婚、出産、それしかこの先に残されていないのか。

 

窮屈な地元で、地元の男と結婚し、地元にマイホームを建てることを夢に生きていくのか、ローンを払って、親の世話をして、ずっと、ずっと、この大嫌いな、本当は抜け出したいと思い続けていたこの地元に、しがみついていくのか。

 

変えたい。

逃げたい。

でも、きっかけがない。

 

そう思っていた苦しみの中に、一筋の光が差し込む。何かのきっかけで知り合った、東京在住の男からの誘いだ。

あちらからしてみれば最初は、ちょっと女の子と同棲してもいいよ、くらいの気持ちかもしれない。でもわたしたちにとっては、救助信号がやっと聞こえたぞ!というような、もうたまらなく歓喜に満ちた道なのだ。

 

それでも結局、男ではある。

恋愛や結婚、みたいなものをきっかけに東京へと行こうとしている。さっきの「結婚しかないのか」という問いに対して、本末転倒じゃないかと見えるかもしれない。

 

いや、違う。

「もう」結婚、しか、ないのだ。

 

親を納得させるには。周りを納得させるには。辞める会社を納得させるには。地元に残ろうと同盟を組んでいたような友達を納得させるには。

 

「結婚するの?(結婚を前提に同棲するの?)」

「だから東京へと行くのね?」

 

「なら、仕方ないね。」

 

 

そう言われて初めて、わたしたちは20数年も身体に絡みついた地元の鎖を、足枷を、外すことができる。堂々と、軽やかに、一歩を踏み出せる。ありがとう、そしてさようなら、わたしの地元よ。

 

結婚よ、同棲よ、ありがとう。

言い訳を、ありがとう。もはやそんな気持ちに心が満たされる。

 

進学や就職で地元を抜け出すキッカケをつかめなかった女たちには、青天の霹靂だが最高の救いだ。救われる、これで、やっと、救われる。

 

 

そのあと、東京で男とうまく関係を進められるかはまた別の話。でも、少なくともわたしが知っている友達は全員うまくいっている。(というか、ほぼ結婚している)

東京の男であれば誰でもいいーーーそういうわけではなく、好きになった男がなんと東京在住でしかも誘ってくれた。ここまで揃っているからこそうまくいく関係であり、念の為に書いておくが利用してるということは一切ないのは一筆記しておく。

 

周りのそれらの東京男に聞いても、幸せそうな回答が帰ってくる。

たとえば手前味噌で恐縮だが、うちの夫は「女があなたのために東京へ行くねと決意までしてくれてるんだ。そこまでやられて、無粋なことはできないだろう、その心意気がかわいい」と褒めてくれる。

 

この記事に結論はない。

ただひとつ言いたいのは、そんなカップルや夫婦がたくさん、たくさんいるのだ。わたしの周囲、という小さな観測地点から見えるだけでも。

 

地方の人間は、東京へと憧れる。

そして地方の女は、東京の男に救われる。

 

の、かもしれない。

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