旅へ出られないことが、こんなにもつらいなんて
残念ながら、この悲痛な叫びが2020年一発目のこのブログ記事になるわけだけど、わたしは今、とてもつらいのである。
たとえば去年は、パリやロンドンに一人旅をしたり、マルタで高熱が出て心細くなってみたり。母国であるシンガポールに帰省したり、友人とソウルに出かけてみたり、ふらっとホノルルに呼ばれたり。
とにかくフットワーク軽く飛行機に乗り、この目で世界各地を確かめてきた。
(2019年2月、1ヶ月以上滞在したパリにて友人撮影)
それは特に2019年は精神的に参っていた自分自身の療養でもあったし、世界中に散らばる友人らに会いにいくことで、迷っていた自分の人生へ確かな活路を見出すための手段でもあった。
知らない土地で見るものは、ときに衝撃的で、ときにがっかりした。何度か訪れた土地で見るものは、ときの変化を感じさせたし、その地で変わらないものが何かを教えてくれた。
見るもの全てが自分の血肉になるという感覚は凄まじく、わたしの人生においてもっとも必要なものだと感じていた。
そんな風に世界中に旅に出ることを繰り返し、旅することが完全に日常となっていたものだから、昨今のコロナウイルスの影響で、今わたしは「旅へ出られないことが、こんなにもつらいなんて!」と叫ばざるを得ない日々を過ごしている。
息するように旅行をしていたものだから、今は呼吸ができていないのではないか、と思うほどに心が落ち着かない、そして行き場のない時間を過ごしている。
3月はサンフランシスコとソウル、4月はクロアチアとウラジオストックに出かける予定があったのだけれども、見事にすべて綺麗に吹っ飛んだ。このままでは夏以降のジョージア、パリ、クアラルンプールの予定も危うい。なんてことだ。
コロナウイルス!
コロナウイルスによる影響は、わたしの家族にも見事に影を落とした。
マレーシアで休暇を過ごしていた者は、鎖国宣言の翌日となる先週日本へと脱出をしてきた。インド駐在をしている者は、インド政府の突然の表明により、仕事が置いていけないこともあり、実質インドに軟禁状態である。
タイに住む者は、いよいよ仕事がなくなり金銭的に困り果てて助けを求めている。シンガポールに住む者は、子供が生まれる予定なのに仕事がストップしたままで非常に焦っている。
あちらこちら、わたしの家族や親戚は世界中で影響を受けていて、みんなで「どうしようもないけど」と口々に言っている。どうしようもない、んだけども、どうしようか、ととりあえずは考えを練る日々だ。
街を見れば、人は少なくなっていて、毎日のように通る銀座は中国人観光客がいなくなった今、ひっそりとした静けさに包まれている。
免税店のラオックスだとか、東急プラザ銀座のロッテ免税店だとか、あのへんはきっと瀕死状態なのではないだろうか。
いくつかの予定は国内旅行に切り替えている。それはそれで楽しみなのだけれど、いかんせん元々の予定がなくなったことには変わりない。
それでは心は埋まらないのだ。
たとえば、初めてのウラジオストック訪問に心踊らせていたわたしは、マイナーな土地ゆえになかなか売ってなかったガイドブックを探して買って予習していたし、簡単なロシア語も頑張って覚えていたのだから。
それがたとえば急に「箱根」に変わったら、さすがに悲しみの行き場がない。
わかるでしょ、「箱根」は悪くないの。でもさ、悲しいじゃないか。
素敵な服や靴を買うのは、旅に出た時に着たいから。
知らない国の映画を観るのは、いつかこの目でその地を見たいから。
自宅でアフリカの料理にチャレンジするのは、旅でその味を確かめたいから。
思えばわたしの行動原理は、多くが旅に繋がっているなと今回改めて痛感した。
現在の世界状況を鑑みれば、たとえ法的・物理的に行ける国がいくつかあったとしても、行かないという選択肢を選ばざるを得ない。せっかく長めに取ったパスポートの有効期限が、無意味に消化されていく。
呼吸するように旅を続けていきたいのだと思っていて、だから仕事も頑張ってきたわけで、そこを止められた今、2020年は受難の年であると言わざるを得ない。
東京オリンピックの行く末もきになる今日この頃ではあるけれど、わたしの癒しやときめきや、楽しみ全てが詰まった「旅」ができない今、わたしは屍のように俯いている。このままでは、ニンテンドースイッチのどうぶつの森の中でしかマイルを貯められないじゃないか。
だからどうか、友人知人の皆さまは、安全な範囲で楽しめる色々なものにお誘いください。オンライン飲み会も大歓迎、おすすめの映画や本も教えてください。
雨宮美奈子は今日もキャンセルになったフライトのeチケットを眺めています。
コロナの爆発的な感染の終息を、ワクチンなどで安堵できる日を、いまかいまかと今日も祈る。このままじゃあ、気が狂ってしまいそうだ。