ねぇ、メンヘラ神。姐さんは社会人になったんだよ
見返せば、このブログで彼女のことについて触れるのはどうやら3度目らしい。
どんな時期でもふとした瞬間に彼女の顔はよぎるし、毎年この季節になると分けてもらった遺品のネックレスを必ず見返してしまう。
カート・コバーン、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョップリン。
なるほど、歴史に残るスターは、どうやらいつも27歳で亡くなるらしい。私は来月、27になる。来年は28になって、「ああ、彼らみたいに何者かになりたかったのに」などと言いながら27歳を惜しみながら、グッと慣れないお酒でも飲むのだろう。
そうやって憧れている人間の亡くなった年齢を越す時、私たちはちょっとした感慨を覚える。あの人間を超えられたのだろうか、なんて思いながら。
だけど、もしも憧れている人間が自分より年下で、突然亡くなってしまったら。
私はどう言う気持ちで年齢を重ねていけばいいだろうか? その答えを、私は未だ持っていないようだ。
私の大好きな後輩は、メンヘラ神という名前でインターネットを闊歩していた。(今は彼女のTwitterアカウントは信用できる人物の手によって消してある、似たアカウントは偽物のbotのみ)
いわゆるメンタルがヘラっていた彼女は、明確に病気だった。『姐さん、私ね、境界性人格障害って言うやつなんですよ』と彼女はいつも私に向かってあっけらかんと笑っていた。でもそれを、コンテンツとしてインターネットで振る舞う術を持っていた。
直接会えば明るく元気に振る舞う彼女は、目を話すと途端に不安定になった。だからその奥深くにある孤独や不安を、多分私は理解できていなかった。
彼女のことをインターネットで検索すると、今もなお、あることないこと、様々な憶測が流れている。あまりにもひどい嘘も見かけるが、それもまた彼女の話題の大きさゆえのことなのだろう。
一部では、彼女を崇拝するような動きも見える。南条あやの再来だと言う者もいるが、もう彼女をカリスマのように扱ってくれるなら、それでもいいんじゃないかと私は個人的に思う。だって彼女は、自身がそうなることを望んでいた。私はそう認知している。
亡くなる前後に何があったかについては、彼女と接したことのある当事者だけが知っていればいい。それでいい。
どうかインターネットの中では彼女は美しく、神格化して浮遊していてほしい。彼女はインターネットが大好きだったから。だから、彼女への言葉はインターネットに向かって紡ぐことにする。
彼女が突然亡くなって以来、彼女のことについて考えてばかりの大学生時代を経て、私は大人になった。新卒で会社へと入社し、転職し、フリーランスの自営業となった。いわゆる立派な大人への道のりは大変だ。
けれども、とにかく社会人になった。お金を自分で稼ぐようになり、好きに生きている。
ねえ、メンヘラ神。姐さんはね、社会人になったんだよ。
信じられる?
好きにお金を稼いでね、好きに生きている。結婚もしちゃったよ。子供はまだいないけど、将来は欲しいなって思っているよ。ねえ、もしあなたが生きていたら、私と同じ25歳には結婚してたんじゃないかな。恋愛依存体質だったよね。
あなたが望んでいた将来って、どんなものだったの? 姐さんはあなたがインターンで表彰された時、嬉しかったよ。大学に合格した時、嬉しかったよ。いつ私に追いついてきてくれるのって、ずっと待ってたよ。あなたのほうが才能はあったもの、文才はあったもの。
なのに先にいなくなっちゃうなんて、困らせないでよ。
あなたの話題をする人間は、今もいるよ。「え。姐さん、そんなの嘘だァ〜」だって? マジで本当だよ、じゃあTwitter検索でもしてみなよ。ほら、エゴサ、エゴサ。
どうしてあんなに可愛かったのに、どうしてあんなにいい子だったのに、どうしてあんなに才能があったのに、私を置いていくんだよ。
学生のままいなくなるなんて、ずるいよ。
何人の人間があなたが社会人になってどうなるかを楽しみにしてたと思うの?
死の直前まで彼女と強く関わっていた人物とも連絡を途絶さぬようにはしていたのだが、その人間も自死を選んでしまった。それもまた、ここ数年ではつらい出来事だった。
彼女の死を、私はようやく受け止められ始めた気がする。ここまで、何年かかったんだろう。それでも、ちゃんと少しずつ前進はしている。
でも、それは猛烈に寂しい。彼女が死んだと認めることは、猛烈につらい。少しずつ彼女に関する記憶が欠けていくような、どうしようもない焦燥感で胸の奥が満ちて、どうすればいいのかと右往左往してしまう気持ちになる。
だからもしも、もしも叶うなら。
彼女のことを知る人間で集まりたい、語り明かしたい。
彼女のエピソードを、人柄を、愚かさを、賢さを、美しさを、語り合いたい。
あの頃とは違い、私が東京に住んでいる今、それはもしかしたら難しくないことなのかもしれないと最近思う。
彼女に関する記憶を手繰り寄せながら、話をしたい。そんな人がいたら、私に連絡が欲しい。私は今、とても彼女が恋しくてたまらない。
最後に、落ち込んだ時に見返す彼女の言葉を引用する。
絶望した時に発狂から救ってくれるのは、友人でもカウンセラーでもなく、プライドである
天国で再会したら、また一緒に同人誌作ろうな。